「うちは小規模だから、就業規則はまだいらない」
そう考えるクリニックは少なくありません。しかし、労務トラブルが起きたとき、“就業規則がなかったことで、院長自身が矢面に立たされる”ケースは決して少なくありません。
医療現場は、パート・アルバイト・正社員が混在し、職種ごとの役割や働き方もさまざまです。ところが、労務ルールが曖昧なままでは、勤務時間や休憩、シフト、指導の仕方一つをとっても「言った・言わない」「聞いていない」といったトラブルが発生しやすくなります。
特に昨今では、問題社員がSNSでの発信や退職代行サービスを利用するなど、突然“外部から攻められる形”でトラブル化するケースも増加しています。
一度火がつけば、診療体制の混乱はもちろん、評判・信頼・事業継続に直結するダメージとなる恐れもあります。
こうしたリスクを避けるために必要なのが、「クリニックの経営を守るための就業規則」です。
これは単なる書類や“お飾りのルール”ではありません。
現場の実情に即した労務ルールを文書化し、不当な主張や一方的な言い分に対して「会社としての正当性」を証明する“盾”の役割を果たします。
たとえば、以下のような要素は特に重要です:
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シフト・休憩・遅刻早退の運用ルール
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有給取得の申請と管理方法
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問題職員への注意・指導・懲戒までの段階的な対応フロー
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ハラスメント防止規定と相談体制
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情報漏洩・SNS発信等に関する禁止規定
これらを就業規則にしっかりと盛り込み、日頃から運用しておくことで、トラブル時に“感情ではなくルールで対応できる体制”が整います。
義務としての就業規則作成が求められるのは「従業員10人以上」ですが、実際には5人未満のクリニックでもトラブル発生率は高く、規模にかかわらず対策は必須です。
むしろ少人数だからこそ、ひとりの不満や離職が経営に及ぼす影響が大きく、予防策の整備が不可欠と言えるでしょう。
もちろん、就業規則は「会社を守る」だけでなく、「スタッフにも安心を提供するもの」であるべきです。
適正なルールが整っていれば、スタッフも働きやすさを感じ、納得感をもって業務に臨むことができます。
それが結果的に、定着率の向上や職場の安定につながるのです。
就業規則は、トラブルが起きてから慌てて作るものではありません。
“何もない平時”こそが整備のベストタイミングです。
感情的な対応や場当たり的な処理に頼らず、法的に正しく・経営的に妥当な判断ができる土台として、「会社を守る仕組み」を、今こそ整えてみませんか?
担当:太期健三郎