医療機関や教育機関は、一般企業より機密情報漏洩の対策が少し遅れている。これが多くの業種、業態の方と接していて私が抱く正直な気持ちです。実際には一般企業よりもセンシティブな情報を扱っているはずです。
「うちはそんなに重要な情報は扱っていないから大丈夫」
そう思っているクリニックや学習塾の経営者の方は、意外と多いかもしれません。けれど、実際には小さな事業所ほど、経営と信用を左右する機密情報を扱っていることを忘れてはなりません。
たとえば、クリニックでは、診療記録や通院歴、診断名はもちろん、患者の家族構成や既往歴、支払い状況、医師やスタッフの所感メモなど、外に漏れたら大きな影響を及ぼす情報が日常的に蓄積されています。特に、精神科・婦人科・不妊治療・性感染症など、診療科によっては極めてセンシティブな情報が含まれます。
一方、学習塾では、成績や学力傾向、志望校、保護者とのやり取り、家庭環境に関する相談、授業の記録、教材や指導ノウハウといった情報が、すべて運営資産であり機密情報です。
こうした情報が漏洩する経路として増えているのが、スタッフの不用意な行動やツールの取り扱いミスです。
たとえば:
• 業務資料をUSBメモリに入れて自宅で作業→そのまま紛失
• 複数人宛のメールを誤って「CC」送信→他の関係者のアドレスが全公開
• 機密資料を添付したつもりが、間違ったファイルを送信
• クラウド共有設定のミスで、無関係な第三者に情報が閲覧可能に
これらはすべて、“意図的でない漏洩”でありながら、重大な信用失墜と損害につながるケースです。
さらに、在職中だけでなく、退職後のスタッフによる情報流出にも注意が必要です。
「教材や患者リストを転職先でも使っている」
「LINEで保護者や患者とやり取りしていた内容が、そのまま残っていた」
など、悪意がなくても“意識の低さ”が漏洩の引き金になるのです。
では、こうした情報漏洩をどう防ぐべきでしょうか?
大切なのは、「ルールを明文化し、制度として機能させる」ことです。
① 就業規則への機密保持義務の明記
「業務上知り得た情報を、在職中・退職後を問わず第三者に漏らしてはならない」
といった条文を就業規則に盛り込みましょう。これにより、本人の意識づけと会社の正当性確保が可能になります。
② 入社時の「機密保持誓約書」
スタッフが業務に就く前に、「何が機密で、どう扱うべきか」を説明し、誓約書に署名してもらうことで、“ルールがある職場”という認識を浸透させることができます。
③ 退職時の「秘密保持確認書」
「知り得た情報は退職後も持ち出さず、漏らさないこと」を文書で再確認します。
穏やかな退職であっても、事実としての確認を残すことで、無意識の持ち出しリスクを抑えます。
④ 「機密情報取扱規程」の整備
• どの情報を“機密”と定義するか
• USBや外部クラウドの使用可否、持ち出しルール
• メール送信時のチェック手順や記録保存の方法
こうした運用ルールを定めておくことで、機密情報漏洩を予防すると同時に、トラブルが起きた際の社内処分や説明責任の根拠となります。
情報漏洩は、「信用を失う」だけでなく、「損害賠償」や「監督官庁からの指導」につながることもあります。
それだけに、“まさかうちが”ではなく、“うちで起きたら”を想定して備えることが、経営リスク管理として不可欠です。
「今は何も起きていないから大丈夫」ではなく、“備えあれば患いなし”「今だからこそ、備えが間に合う」と捉えて、制度の見直しを始めてみてはいかがでしょうか。
就業規則や誓約書の整備に不安がある方には、必要なポイントを押さえたテンプレートや事例をご紹介することも可能です。お気軽にお声がけください。
担当:太期健三郎